
愛してるって言って!
第3章 【合縁奇縁】
「はぁ…」
物思いにふける忍を、嶋が気にして見つめる。
生気が出て行くようなため息だと、自分でも思った。その日、忍は全くと言っていい程、仕事に身が入らなかった。浮かれて良いのか、沈んだ方が良いのか、よくわからない状況で、そんな忍をまるで無視するかの様に、いつもと変わらない一日がいつもと同じように過ぎていく。
「十二回目」
「はい?」
「オレが今日ここに来てからの、お前のため息の数だ」
休憩時間中の嶋が、カウンター席に座って食後のコーヒーを飲みながらそう言った。
「あ、そう」
忍は調味料や少なくなったカトラリーなんかを補充しながら気のない返事をする。
「ため息をつくと幸せが逃げるってのは迷信だが、これだけつかれるとこっちの気が滅入る」
「すみません」
「ここ最近で一番心のこもってないすみません、だな」
忍は、無言で嶋を睨む。すると、嶋は「まだその方がいい」と言って笑った。
「今日、この美術館ではいつもと違う事が二つある」
「何?」
「魂の抜けたお前と、それから…」
「それから?」
「蒔田が妙にお疲れだ」
忍はギクッとした。嶋は勘がいい。忍が少しでも何かを話せば、その言葉の節々から昨夜何が起きたかを見抜かれてしまうかもしれない。嶋には相談など愚か、話す事すらできない。絶対に、だ。
話したら即、喧嘩になりそうだもんな…。
嶋の思いやってくれる気持ちは嬉しいが、それによって静矢が傷つく事だけは避けたかった。
「何かあったのか?」
だが、間違いなく嶋は何か気付いている。少しの異変を察知し、何があったかを探る為に自分の中でいくつか例を出しながら推測して、正しい答えを導き出す。困った事に、恐らく嶋は、そういう一人カンファレンスが得意だった。
「別に。何もないけど」
忍は、悲しくなる程下手くそな自分の嘘に嫌気が差した。
「お前のそれは、何かありましたって言ってるようにしか聞こえないぞ」
「何もないって」
「ふうん、なるほど。オレには言えないような事なのか」
当たり前だ。
嶋さんには絶対言えない。言えるわけない。静矢さんと、昨日あの後、なんかよくわかんないけど、寝た…なんて。
嶋は、面白くなさそうにため息をついて、最後のコーヒーを口にした。
物思いにふける忍を、嶋が気にして見つめる。
生気が出て行くようなため息だと、自分でも思った。その日、忍は全くと言っていい程、仕事に身が入らなかった。浮かれて良いのか、沈んだ方が良いのか、よくわからない状況で、そんな忍をまるで無視するかの様に、いつもと変わらない一日がいつもと同じように過ぎていく。
「十二回目」
「はい?」
「オレが今日ここに来てからの、お前のため息の数だ」
休憩時間中の嶋が、カウンター席に座って食後のコーヒーを飲みながらそう言った。
「あ、そう」
忍は調味料や少なくなったカトラリーなんかを補充しながら気のない返事をする。
「ため息をつくと幸せが逃げるってのは迷信だが、これだけつかれるとこっちの気が滅入る」
「すみません」
「ここ最近で一番心のこもってないすみません、だな」
忍は、無言で嶋を睨む。すると、嶋は「まだその方がいい」と言って笑った。
「今日、この美術館ではいつもと違う事が二つある」
「何?」
「魂の抜けたお前と、それから…」
「それから?」
「蒔田が妙にお疲れだ」
忍はギクッとした。嶋は勘がいい。忍が少しでも何かを話せば、その言葉の節々から昨夜何が起きたかを見抜かれてしまうかもしれない。嶋には相談など愚か、話す事すらできない。絶対に、だ。
話したら即、喧嘩になりそうだもんな…。
嶋の思いやってくれる気持ちは嬉しいが、それによって静矢が傷つく事だけは避けたかった。
「何かあったのか?」
だが、間違いなく嶋は何か気付いている。少しの異変を察知し、何があったかを探る為に自分の中でいくつか例を出しながら推測して、正しい答えを導き出す。困った事に、恐らく嶋は、そういう一人カンファレンスが得意だった。
「別に。何もないけど」
忍は、悲しくなる程下手くそな自分の嘘に嫌気が差した。
「お前のそれは、何かありましたって言ってるようにしか聞こえないぞ」
「何もないって」
「ふうん、なるほど。オレには言えないような事なのか」
当たり前だ。
嶋さんには絶対言えない。言えるわけない。静矢さんと、昨日あの後、なんかよくわかんないけど、寝た…なんて。
嶋は、面白くなさそうにため息をついて、最後のコーヒーを口にした。
