BLUE MOON
第6章 星空
「私が幸せになれると思ったんです」
単刀直入に桃子を選んだ理由を尋ねたら、桜木さんははっきりとそう答えた。
そして膝の上で眠る桃子の頬をそっと指先で撫でながら
「すみません、普通反対ですよね」
申し訳なさそうに、でもどこか嬉しそうに言葉を紡いだ。
「どうしてそう思ったんですか?」
言葉をつまらせてしまった私の代わりに智也が徳利を差し出しながら言った。
「なんでしょうね…一言で言えば桃子さんだからでしょうか」
まぁ、普通に考えれば彼女の姉夫婦に色恋を話すなんておかしい。
桜木さんは桃子の額にかかる髪をスッとあげると
「はじめて会った日にお好み焼きを食べに行ったんですよ」
額を出したことで幼くなった桃子の顔を愛しそうに見つめて
「お好み焼きが焼ける湯気の向こうで目を丸くするモモと目が合ったときに、この子だって…この子しかいないって…どこか寂しそうに笑う彼女を見て思ったんです。」
世間ではビビビッなんて例えるけど
「洒落っ気もない年配のご夫婦が経営するお好み焼き屋さんで気付いたら想いを伝えていました」
それから彼は照れながら桃子の淹れたコーヒーが美味しいこと、料理はまだ勉強中だが掃除や片付けが上手なところ
「モモは職場でも人気があって」
隙がありすぎて職場でヒヤヒヤさせられること。
「早い話、可愛くてしょうがないんです」
そういえば智也もこんな風に笑ってくれた日があった。
両親を不慮の事故で亡くし自分を攻め続けた桃子を守れるのは自分しかいないと決心したあの日
「桜木さんの気持ちはわかりました」
智也は私だけでなく桃子にまで手を差し伸べてくれた。
そんな彼と添い遂げられて私は今幸せだと胸を張って言える。
じゃあ あなたは?
「最後にひとつだけ聞かせてください」
桜木さんは背をスッと伸ばして私を見据える。
そんなに好きだと言うのなら
「もし桃子から別れを告げられたらどうしますか?」
さぁどうする?
「そうですね…」
繋ぎ止める?それとも聞き分けのいい振りをして諦める?
どっちだろう
桜木さんはひとつ頷くと微かに笑みを浮かべて眠る桃子の髪を撫でながら
「きっと…みっともないぐらいに泣いて喚いて縋り付くでしょうね」
幸せそうに笑った。