BLUE MOON
第6章 星空
「少しは落ち着いた?」
「スミマセン…」
宿を出るときにお姉ちゃんと握手をした。
小さい頃からずっと傍にあったあたたかい手。どんなときでも一番最初に差し出された手。
重ねた瞬間に涙が溢れた。
バカな妹だと私の背中を擦りながら詰まらせたお姉ちゃんの声をありがたく受け取り、手を振りまた会おうと約束をして別れた。
そして車の中
涼さんはまだ涙を溢し続ける私の手を握りしめてくれた。
それはお姉ちゃんとまた違うぬくもり。
優しくて力強くて
なんだろう…この手に守られたいって、守りたいって思う大きな手だった。
*
「どこに向かってるんですか?」
途中コンビニで買ったコーヒーを片手に首を傾けるモモの表情は晴れやかだった。
「美味しい海の幸を頂こうと思って」
真っ直ぐに伸びる道路を見据えながら横目でそう告げるとパット花が咲くように目を細めるキミが視界に映る。
「昨日 青木さんに牡蠣小屋の話を聞いてね」
「牡蠣小屋?」
泣いたカラスが…なんて言葉が俺の頭に浮かぶ。
「牡蠣の他にも海の幸が色々あるらしいんだけど、網の上で豪快に焼いて食べるんだって」
うんうんと頷きながら想像しているキミの顔を見て思う。
「私、牡蠣大好きなんです」
やっぱりキミには笑顔が似合う。
背負ってしまったものをいっぺんに降ろすのは大変だろう。
でも 1つずつでも俺にも背負わしてほしいと願う。
昨晩 御開きになったときにお姉さんは俺の傍まで来ると膝で眠るモモの頭を撫でて
『幸せにしてあげてください』
そう言って畳に頭を付けた。
俺も急かさずモモを膝にのせながらも頭を下げた。
好きな女のために頭を下げるのは苦ではない。
これからモモと一緒になるためにはたくさん下げなきゃいけないだろう。
「食べ放題ですかね?」
「教えてもらったところはそうらしいよ」
下げてすむならいくらでも下げてやる。
「いくつ食べよう」
まだ赤い瞳を大きく見開きながら思案するキミ
「青木さんは50個食べたって言ってたよ」
「すごーい!」
胸元の月が太陽に照らされてキミの白い肌をさらに際立たせる。
「お姉さんは60個だって」
「マジですか…」
必ずその百面相を俺は手に入れるんだ。