BLUE MOON
第6章 星空
「Zzz…」
ホント、可愛いったらありゃしない
助手席で眠る姫君はお姉さんとの別れに涙したと思ったら軍手をはめて険しい顔して好物の牡蠣と格闘して
「…ったく」
人生最大の幸せを口に運ぶかのように大きな牡蠣を頬張って腹を満たし
「Zzz…」
せっかくだからと松島まで足を向け自然の尊さに心を満たせば
「眠り姫だな」
夢の世界へあっという間に旅立った。
スヤスヤと寝息をたてるモモとこの旅で距離が縮まったかもしれない。
それは俺が構えるスマホに向ける表情が一辺倒ではなくなったからだ。
笑顔だけを向けていたキミが唇を尖らせてみたり眉間にシワを寄せてみたり、目を見開いておどけて見せたり
「モモ、そろそろ着くぞ~」
「んぅぅ…んっ!?」
…ガバッ!
隣で一緒になって笑って写る俺の顔までもつられて表情が満ちていて
「え…ウソ、ヤダ…」
「クククッ」
閉ざされていた心の最後の扉のカギが開いたのかもなんて期待してしまうほどだった。
「スイマセン、私…」
信号に捕まったタイミングで平謝りするキミの肩を抱き寄せて
「今夜は夜更かしできそうだね」
耳元でそっと囁く。
「…もぅ」
耳や首まで真っ赤に染めて二人きりの夜を想像してくれたかな
昨日はおあずけを食らったんだ。
今日こそは浴衣姿の愛らしいキミを思う存分堪能したい。
*
「ここ…ですか…」
昨日の宿も立派だったけど
「静かで良い場所でしょ」
今日の宿はまた一段と趣のある宿だった。
手慣れた感じでスタスタと歩いていく涼さんのあとを手を引かれ付いていくと
「いらっしゃいませ、桜木様」
入り口の前で和服を着た女将らしき年配の女性が頭を下げた。
「お久しぶりです女将、今日はよろしくお願いします」
涼さんはどうやらこの女将を知っているらしい。
ロビーのソファーに私を座らせフロントで手続きをすると
「やっと見つけたんですね」
クスクスと笑いながら涼さんを肘でこ突いた。
「えぇやっと」
涼さんは私の背中に手を添えて女将に紹介する。
「社長も奥さまもこれで安心しますね」
私にも丁寧に挨拶をして目を細めてくれたのだけど
「いや、決戦はこれからなんで」
涼さんは苦笑いを返した。
「さぁどうぞ」
女将はそれに何も答えずに微笑むと部屋へと案内してくれた。