BLUE MOON
第6章 星空
「いい加減座ったら?」
案内されたお部屋は私の想像を遥かに越えていた。
「だって…」
畳の香りがするこのお部屋の奥にはシングルベッドを2つ並べた和室。それと…
「なに?もう一緒に風呂入る?」
「いっ、一緒に?!」
縁側の向こうにはこの部屋のためにだけある露天風呂。
さりげなく飾られている調度品も私のお給料じゃ買えないだろうと思われるものばかり
いわゆるここは世間でいう高級旅館。
私みたいな庶民には縁遠い場所。
それなのに
「まさか一人で入る気?」
「一緒に入るつもりなんですか?」
涼さんは部屋に入ると慣れた様子で座椅子に座ってお茶の支度をしてくれる女将と平然と話しこんでいた。
「モモは今朝の約束忘れちゃった?」
「約束?」
手招きされて涼さんの隣に座るとテーブルに肘を付いて私の顔を覗きこむ。
「我慢したから1つ言うこと聞いてくれるんじゃなかったっけ?」
「我慢って…エェっ!?」
わかりますよ、えぇわかります。
それなりの仲の二人が露天風呂つきのお部屋に泊まったらイチャコラしながら由緒正しきお湯に浸かるんだろうなというぐらいは
「そんなに俺のことがイヤなんだ」
「そういうことじゃなくて…」
覗き混んでいたアーモンド色した瞳は意地悪そうに弧を描く。
「じゃあ何でイヤなの?」
だからそこなんだよ。
「私、男の人とお風呂に入ったことないので手順もわからないですし…作法もわからないから」
涼さんのアーモンド色の瞳は大きく開くと一瞬で無くなるほど細めて
「アハハハッ!」
天井を見上げながら笑った。
何がおかしいというのだろう。
どうせ私は経験値も少ないし、っていうか90%以上あなたに教えてもらったことだけだし
「手順に作法ね、アハハハッ!」
「笑わないでください!私だって真剣なんですから!」
選び放題遊び放題だった涼さんとは違います!なんて叫びたいけど
「何でそんなに可愛いんだよ」
抱き寄せてくれる涼さんの手が優しくて
「欲しくて欲しくて堪らないのに」
妖艶な声で耳元で囁く声が私の心臓にダイレクトに届けば
「今、俺かなり我慢してるのわからない?」
「…涼さんのバカ」
自然と重なる唇。
「今日は最大限に甘やかすから覚悟するように」
「はぃ」
今日は大好きな人にすべてを任せる…方がいいのかな。