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BLUE MOON

第6章 星空


せっかくだからと宿の大浴場に身を沈め 素晴らしい料理とお酒を堪能して縁側で一人空を眺めていた。

「その件は魚住に振ってくれ。それともうひとつの××産業の受注に関しては五十嵐が詳しいはずだから」

BGMは涼さんの仕事モードの声。

無理して私との時間を作ってくれたのだと知り心が痛む。

きっと昨晩も私の知らない場所で職場に電話していたのだろう。

彼は御曹司と言われながらも甘えや妥協は一切ない。むしろ他の社員よりも自分に厳しいと思う。

そこが惹かれるところの1つでもあるが、同じように彼を想う人もたくさんいるのが現実だ。

「必要な資料が欲しければ今すぐ送るぞ?」

私たちは関係を内緒にしているからか その想いを彼に打ち明ける人はたくさんいる。

その度に断ってくれているようだけど 未だに私の心は落ち着かない。

大事にされているのは分かる。

でも、ここに来たときにも女将に言っていたように私みたいな庶民が二つ返事でOKをもらえる筈がない。

グループ会社も含めてこの会社は血族が優位に立っている。

とならば、それなりのお嬢様を迎えるのが筋なんだろう。

高級旅館に当たり前のように泊まる涼さんと落ち着かない私

それなりにお洒落もするようになったけど まだまだ足りないものばかり

「はぁ…」

空を見上げて無数に散りばめられた星を眺める。

多分私はこのたくさんある星の中でも目立たない普通の星なのだろう。

「涼さんはあれかな」

一際輝く星を見つけて二人の身分の違いを例えると

「俺がなんだって?」

電話を終えた涼さんが背中から抱き締めるように足を投げ出し私の後ろに座り込んだ。

いつもの特等席の出来上がり。

「私たちって星に例えたらどれかなって思ったんです」

「モモ星はどこ?」

「私のなんか小さすぎてすぐに見つけられません。涼さん星はあの一際輝いてる星かなって思うんですけど」

涼さんの大きな手が私のお腹に廻され肩に顎が乗ると

「モモ星見っけ」

「え…」

「モモから見れば小さな星でも俺には一番きれいに輝いてる星だからすぐに見つけられた」

「キザですね」

無理だとわかっていても嬉しい言葉に胸がつまる。

首筋に彼のぬくもりと共に唇が触れる。

「約束の時間ですか?」

「あぁ」

シュルリと浴衣の紐が解かれるのと同時に私は彼の胸に頬を寄せた。

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