テキストサイズ

貴方がいつもそこに居てくれたから…

第1章 壱


キッチンでフライパンを振る相葉さんの背中を眺める。

『手伝いましょうか?』って声を掛けたけど、座ってろと言われた。
シャワーまで借りてしまった。
前に来た時も、相葉さんはこの部屋を好きに使っていいって言ってくれたけど、何だか申し訳ない。


相葉「…出来た!…お待たせ♪」

運んできた相葉さんお手製の晩ご飯。
チャーハンやら八宝菜やら、中華三昧のそれは本当に美味しそう。

「……いただきます」

相葉「どうぞどうぞ♪」

食べ始めたら、見た目通り美味しくて。
『……美味しい』と呟いた僕に、ホッとした様に笑ってた。


相葉「ねぇ和くん」

「…はい?」

相葉「もしさぁ、嫌じゃなかったら……ここに、住まない?」

「………え?」

相葉「あ、いや、嫌ならいいんだ!うん、無理にとは言わないけどさ……ほら、別に俺ら付き合ってる訳じゃ、まだないし…」

「………」

相葉「嘘、何でもない…ごめん、気にしないで?」

言わないで、このまま相葉さんと過ごす時間が許されるならと思ってた。
でも、今目の前に居る相葉さんの顔が、淋しそうで。

言わなくていい事なのかもしれないけど、相葉さんに聞いてもらいたいと思ってる自分も居るのは確か。

言ってしまって、引かれてもうこんな時間を過ごせなくなるかも…って思いもありながら、それならそれで元の僕に戻るだけの話だとも思った。

半ば、ヤケクソ気味な思考。

これで相葉さんが離れてしまうなら、そう言う時期なんだと僕が諦めるしかないから。

「相葉さん。……僕…」

相葉「ごめんって、いいよ。気にしないで?本当」

「違うんです。……僕、相葉さんに……聞いてもらいたい、話が…あって…」

相葉「…?…うん」

テーブルを挟んだ向かい側で、姿勢を正す彼。

俯いた僕は、腿の上でギュッと拳を握る。

やっぱり、怖い。
楽しいと思えてる相葉さんとの時間を、僕の話で失うかもしれない。
いや、きっと失う。
そう思うと、やっぱり怖くて仕方ないんだ。

一度知ってしまった楽しくて幸せな時間を、失いまた元の暗い生活に戻るなんて…

それでも、僕は話さなきゃ駄目だと思う。
相葉さんが離れるなら、それはこんな僕の傍に居ちゃ駄目な人なんだろうから。



「……僕は……母親を………見殺しに、したんです…」


ストーリーメニュー

TOPTOPへ