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I'm In Love With The HERO

第1章 夜空ノムコウ【黒桃】





夜、さくらがサージェス内にあるサロンへ入るとそこには誰もいなかった。
皆、ミュージアムの方へ行ったり、夜だから部屋に帰ったりしているんだろうかと特に気にもとめずさくらは持っていた資料を机に置き、椅子に座った。
もう時間も遅いし、帰っても良かったのだが生真面目なさくらはこの仕事を片付けてからにしたかった。
しばらくパソコンのキーボードをカチャカチャと鳴らしながら文字を打っていると微かに何かの音が聞こえ、さくらは手を止めた。
タイピング音が止んだことによってもっとはっきりと聞こえる。
それは規則的でまるで人の呼吸音のような。

「…寝息?」

ここには誰もいないはずですが…と不審に思いさくらは椅子から立ち上がった。
もし不審者でも入っているのだったら大変だ。万一に備え、誰か呼ぼうかと考えたが男1人ぐらいなら生身でもそれなりに対応できる自信もあったのでそのまま音のする方へ進んだ。
音は中2階のトレーニングマシーンや折りたたみベッドがある場所。
恐る恐る階段を登り、覗いてみると…

「真墨?」

帰ったと思っていたはずの真墨が定位置の折りたたみベッドに腕を組んで眠っていた。
疲れて眠ったのか、昼寝をして思いのほか眠りが深かったのか…恐らく後者だろう。
しかし、誰か気付かなかったのか。
だが、何だっていい。ただ、さくらが言いたいことはただ1つ。

「感心、しませんねぇ…。」

疲れて眠ったとすればこんなところでうたた寝するなんて。昼寝だとすればもってのほか。
でも、不思議とさくらは怒っていなかった。それどころか顔は少し笑みを浮かべている。
あんなに普段はつっけんどんとしている割には寝顔はまだまだあどけない少年といった感じだ。
さくらは無言で桃色の上着を脱ぐと真墨に掛けた。

「風邪、引きますよ。」

当然、真墨は起きやしない。そんな様子にまた1つ笑った。



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