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ヴァンパイアのCrazy Night

第1章 プロローグ


「しかし、何故こんなにも引き込まれるのだろうね。いつもなら絶景にこんなにも心を震わせる事はないのだが…。いや、もしかすると、今宵の満月は、私たちに何かメッセージを知らせているのかも知れないな」

主はいかにも考え込むように、長い人差し指と親指を顎に付け、その瞳に期待の色を浮かべながらそう言った。

彼がいつもこのように、非現実かつロマン溢れる発言をすれば、大抵少年たちは顔を苦々しくさせるか無視をするのだが、今回の場合は好奇心真な様子で、主の言葉に食らいつく。

「メッセージ?」

「なぁにそれ?」

「あぁ、そうだな。例えば…この退屈極まりない日々の中、また新たに招かれざる客人がやってきたり…とかね」

まるで綴られた台詞を読むように、主は抑揚を付けて、あたかも少年たちの気を引き付けるかのようにそう言うと、彼らに茶目っ気たっぷりにウィンクをする。

「へぇ〜…いいね!僕も、この頃退屈過ぎてうんざりしてたところなんだよね。それ、本当だったらいいのになぁ〜」

「いや、案外本当かも知れないぜ。今宵はいつもと明らかに様子が違う。だってほら、下見てみろよ。いつもは俺たちの前では怖気付いて顔も出さないコウモリ共が喚いてるだろ。アイツら、人影には敏感なんだ。つまり、この屋敷付近に人間がいる可能性が高いって事になる」

「なるほど!それじゃあ、あのコウモリ君たちは、僕たちにとびっきりの餌がやってくるんだよって事を知らせてくれているんだね!」

「あぁ、多分な。満月が赤いのは…きっとまぁ偶然だよ。でも、なかなか悪くない偶然だな」

「偶然か必然か…。私は必然だと信じるがね。怪しく嗤う満月の宵には、招かれざる客人。そして、暗い森の中にひっそりとそびえる館の住人たち。運命を司る神の悪戯によりそれらが巡り逢う時、体の芯までが蕩ける程の遊戯が幕を開けるのだよ」

主のそのロマンに満ち満ちた発言は、珍しくもさらに双子の心に期待という感情を植えつける。

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