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僕ら× 1st.

第5章 伊織の婚約者 --Shu

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冬休み、一時帰国すると戻りたくなくなると言って、伊織は帰ってこなかった。
お前の花野ちゃん、アルが見つけたぞなんて言えるわけもなく、俺は、「フィアンセ元気か?」と電話口で尋ねてみた。
連絡はとっているらしく、「元気そう」と返ってきた。

明けての始業式。
正門の見える廊下で本を読みながら彼女を待っているアル。

寒いのに窓を開けて、ご苦労だな…。
彼女が通りかかったところで、見ているだけなのに。
彼女には、相手がいるとわかっているのに。

俺は、少し離れた教室内でスマホをいじりながら観察していた。

と、うしろで誰かの話し声が聞こえた。

「おい、あれ、宮石ちゃんじゃね?」

「うわっ、そうだよ。何してるんだろ?」

振りむくと、3年の教室をキョロキョロと覗きながら歩く花野ちゃんを見つけ…彼女も俺に気づいて駆け寄ってきた。

「柊先パイ、おはようございます!」

「おはよう、花野ちゃん。どうしたの?」

「あのっ、文化祭のときは、とても助かりました。ありがとうございます。これ、お礼のクッキーなんです。私が焼いたんです、受けとっていただけますか?」

と、2つ持っている小さなペーパーバックの1つを渡してくる。

それを見た、クラスメイトがひやかしの声をあげたので、彼女は可哀想なくらい恐縮しだした。

「すみませんっ。ご迷惑をおかけするつもりはなかったんですっ」

と謝ってくる。

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