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僕ら× 1st.

第6章 卒業まで --Ar,Mkt

~吉坂侑生side~

あれから俺は週2回、音楽室に顔をだす。
始めの20分程度だけ。
もっと一緒にいたいけれど、彼女の練習の邪魔はできないから。

彼女のよく動く指や楽しげな表情を見ていると、あっというまに時は過ぎていく。

彼女は自分から積極的に話すタイプではないようで、俺も会話に自信なく、沈黙が続いたりもするけれど、彼女はそれを気にするでもなく、ニコニコと過ごしてくれる。

ときには真昼の上弦の月を眺めたり、飛行機雲がなかなか消えないと、明日は雨かなぁと予想したり。

水族館が好きみたいで、どこどこにはペンギンのお散歩タイムがあって、こっちにはアシカのショーがあって、と教えてくれた。

柊にいわせれば俺の退屈な機械話だけど、それでも耳を傾け、質問までしてくれる。
ヤツの忠告に従い、あまりマニアックにならないよう注意しながら、うまく喋れてるんじゃないかと思う。

話すことなんてあってもなくても、俺にはドキドキしながらも安心できる癒しのヒトトキだった。

マスターの言う"あいつ"…ネックレスの"準彼氏"については、尋ねることはできなかったけれど、それで充分で。
貴重な時間をそんなほかの男の話に費やすのはもったいなくて。

それに、俺はだいたいの見当がついてきていた…。
確かめるのも怖くて、今だけだからと甘えてきた。

来週から彼女はスキー研修で、俺は自宅学習生活に入ってしまう。

1月に始まったばかりのこの幸せな時間も、残すは今週の火曜と金曜のみ。

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