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僕ら× 1st.

第6章 卒業まで --Ar,Mkt

俺の頭がアンドゥトゥロァと刻んでいると、ドアからさっと根岸が入ってきた。

「お前の頭のなか、見えるかも」

「おぅ、お邪魔してるぞ」

ここの顧問:根岸は時々、顔を出してきては、俺と花野ちゃんの時間を奪う…。
今日は、いつもより来るのが早いな……。

「お前、試験勉強は?」

「カタいこと言うなって。俺、花野ちゃんに音楽習ってんだ」

この中高一貫校で、成績もトップクラスの俺だぜ?
受験がわりの3学期最終試験なんて、顔パスみたいなもんだ。

「へぇ、"ジュ・トゥ・ヴ"ね」

俺を見てニヤリと笑う。

「深い意味ねぇよ」

お前とそんなどうでもいいこと話してるうちに、ほら、彼女が楽譜をめくって何か弾きだした…。

これっ、あのなだらかなおやすみの調べ……。
左手、そんなふうにして弾くんだ。

「これは?」

「"ジムノペデイ"だ。さっきと同じ作曲家が作った」

「お前、よく知ってるのな」

「俺、ピアノ習ってたから。指示は"ゆっくりと苦しみをもって(Lent et douloureux)"……」

「ええっ?」

根岸がピアノを弾けるなんてどうでもいいけど、こののんびりとくつろげそうな曲に"苦しみ"って…。

俺がその作曲家の意図を考えていると、根岸がマジメな顔でこう言った。

「……吉坂、ちょっと来い。話がある…」

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