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僕ら× 1st.

第6章 卒業まで --Ar,Mkt

根岸に呼ばれて、俺は寒い屋外に出るはめになった。
音楽室、花野ちゃんの前でできない話ね、成程ね。

「ここに来るお前の目的は何?」

「目的?」

「初めは、俺だけでは心許ないからと、ヤツに頼まれて見張りでもしているのかと思ったけど…、ヤツってわかるな?」

あいつ、教師に見張りを依頼したのか…。
てことは、この男は無害に近い、と判断されたんだな。

「……速水伊織」

聞かれた俺は、自分より遥か先を行く男の名前を出さなければならなかった。
口にすると、認めたことになる…。

「じゃあどうして?」

やっぱり、やっぱりそうなのか……。
あいつが言ってた"フィアンセ"……。
花野ちゃんの"準彼氏"……。

「一緒にいたいから」

「……兄弟で取りあう気か?」

俺だって最近まで知らなかったんだ。
気づかないふりをして、考えないようにしていたんだ。

花野ちゃんは、俺があいつの兄だということを知っていた。
彼女がはにかみながらあいつの名前を口にしたときは、心臓が凍りつくかと思った。
幼い頃から家族ぐるみのつきあいで、普段はリルと呼んでいて、この同好会はあいつが作ったのだと……。

それでも、限りなく黒に近いグレーをまじりけのない黒にしたのは、13秒前のお前だ。

「まさか…そんなことしねぇよ」

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