テキストサイズ

僕ら× 1st.

第7章 伊織帰 --Ior,Kn,Ar

小津と別れて、気にいった楽譜を買って、手近なカフェに入る。
席について注文したあと、彼女がポソッと言った。

「マコも来られればよかったのにね」

「いらない。あいついたらゆっくり楽譜探せないし」

「私に気を遣わなくていいよ?」

あれ?
やっぱりさっきから何か妙な雲行き…これ、ヤバいかも。
今まで軽快に流れていた時間が、ゆっくりと重苦しく僕にまとわりつくように進みだす。

「リルとマコ、お似あい」

「………」

ニコッとして彼女は、残酷な言葉を言いはなつ。
絶句、思考一時停止。
再起不能とまではいかないにしても、たいしたダメージを脳天にくらい、僕は頭を垂れる。

誰と誰が"お似あい"、だって?

「今日もふたりでいたかった?私、お邪魔だったかな?」

「…僕、小津のこと好きじゃないから。さっきだって、八つ当たりでゴミ寄越してきてウザかったし」

これ以上打ちのめされないように、僕は気をとり直して精一杯否定にかかる。

「そう?」

まったく信じてない。
さっき、小津に絡まれても無視するんだった。
それ以前に、彼女の前であいつにアル兄縁の品物なんて渡さなきゃよかった。

「小津も僕のことなんか何とも思ってない。あいつ面食いだから」

「リルはカッコいいよ」

"カッコいい"その言葉に、この期におよんで喜ぶ僕がいる。
だけど違う。
彼女の言うそれは、心的抑揚をもたらさない"カッコいい"に過ぎない。

「…あいつは僕の兄貴を好きなの!そして、僕はほかに好きなコがいるの!」

「ふうん?誰?」

「っ…」

聞く?僕にっ、そんなこと、聞くか?
誤解されてるくらいなら、言ってしまったほうがいいのか?
けど、このシチュエーション、玉砕確実だろ…。

僕が考えあぐねていると、ウェイトレスがスコーンのセットをテーブルに並べ始めた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ