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僕ら× 1st.

第7章 伊織帰 --Ior,Kn,Ar

「これでわかったでしょ?」

僕の好きなコが誰なのか。
これでわからないわけないよね?

「…半分コしてほしいなら、言ってよね?」

「半分コじゃないよ?」

怪訝な顔をしながらも頬を赤らめた彼女は、充分に染みだした琥珀色の液体を白いカップに注ぐ。
次いで、ミルクをたっぷり加えて混ぜようとスプーンを取ったが、僕の視線を感じたのか動作を止めてから、こちらをゆっくりとうかがう。

彼女の一挙一動を逃さず観察していた僕と目があい、慌てて視線をはずす。
うつむきがちに、まばたきする目をそわそわと動かした。

僕の気持ち、気づいてくれた?
昔、一緒に見た映画のワンシーンみたいだったでしょ?

でも彼女は。

「リル…この国ではね、そういうこと友だち同士でしないんだよ?」

紅茶をくっと飲んで、僕をたしなめる。

しかし、そうきたか…目の前の男が、自分に好意を持ってるって発想しないのか?
このままじゃ僕、海外にかぶれて誰にでもフランクに接するただのアホじゃね?

「大丈夫。僕、好きなコにしかしないから」

「そう?……ま、いっか」

いや、よくないよ!
今、僕、なにげに告白したんだけど!

好みの有名人を尋ねられても答えられない彼女が恋愛にウトいのは知ってるけど、ここまでか?
うちにいる機械バカとたいして変わらないじゃないか。
人間より、海獣のほうが好きなんだろ…。

あいかわらずのんびりと首をかしげる彼女の前で、僕は冷めかけたコーヒーをいっきに流しいれた。
この胃に、このブラック…やっぱり彼女の前でカッコつけてる自分に、少々あきれる。

精算を担当した先ほどのウェイトレスが、「可愛い恋人でお似あいね。羨ましいっ」と僕に耳打ちした。
悪い気はしないが、どうせなら彼女に言ってほしい…"いい彼氏ねっ"て、一言でいいから。

影がのびる帰り道、彼女の空いた手をつかむと、仕方ないなぁという風に僕を見て笑った。

僕のあげたネックレスが、彼女の首元で夕陽を反射した。

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