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僕ら× 1st.

第9章 トリオ --Shu,Ior

「百人一首で業平さんと同じく紅葉を詠んだ道真さんに、春が来るよと知らせてもらいました」

「はい。ごもっとも」

季節はずれでございましたな。
くそ生意気な。

「嫌味じゃないよ。柊兄のとこにも風は吹くから。離れても主のもとに梅は飛んでくるから。
花だって赤いだろ?きっと似あうよ」

ふうん、慰めようとしてくれたわけか。
でも俺は、まだ期待なんてできるのか?
世のなか、万能じゃない。
医学に奇跡を求めるのはお門違い。

「俺はお前のように造詣が深くないから、わっかりにくいんだよ!」

「平坦でも深いように見せているだけ」

アルが、「くくっ」と笑って伊織を見る。

「お前、俺の本読んだな?」

「自信過剰はアル兄の専売特許」

「け。同類が」

政治学にも手ぇ出してんのか…。
前から思ってたけど、こいつは活字中毒なんじゃねぇか?
彼女とのデートも主に図書館だってゆーし。

「で、アルはどういう風の吹きまわし?」

「家族を守るんだ」

「へぇ、いい心掛けだなぁ」

動機は、花野ちゃんだろうけど。
妹に不甲斐ないとこ見せたくねぇもんな。

中等部で配られた新聞は、俺も目を通した。
ショックだったろうな……。
保護者として呼びだされたあと、変な呪文唱えて様子がおかしかったもんな。

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