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僕ら× 1st.

第9章 トリオ --Shu,Ior

それから1月後の風光る5月の午後。

3人の演奏を聴きに来た顧問が手に持つは、若鮎の包み…。
ほんのりとカステラの甘い匂いを漂わせて、提案する。

「うん、やっぱいいね。そろそろコンサートしない?サマフェスで枠貰えるから」

「やりたい!ね、花野!」

ピアノ椅子から立ち上がり、いそいそと緑茶を取り出す花野に、羽賀は後ろから飛びつく。

「コンサートって、お客さんの前で?」

「他にどこですんのよ?」

まあ、そらそうだ。
けど、花野にくっつくなよ。

羽賀は僕に睨まれたからではないだろうけど、花野から離れてシュガーとミルクを用意しようとする。

「ちょっと待って!要らないだろ?それ」

僕の注意に、「要るわよ。ラテだから」と羽賀は、その2ポットとスプーンをテーブルに運んだ。

……自分で飲むなら何も言うまいと、僕は花野に「お茶の香りっていいよね」と声をかけながら肩に軽く手をかける。

なのに即、顧問は花野に触れる僕の手を「のけろ」と指さす。
女子同士はいいくせに。

「堂々とするか、隠れてするかの違いだろ?」

不平を述べながらも顧問の指示通り僕は手を外し、鮎菓子をお皿に並べた。

「隠れてもしてるんだろ?」

つっけんどんに顧問は聞いてくる。

「そんなしてないと思うけど。ね、花野?」

と、花野はトレイを持って顧問の待機するテーブルへと足を向けながら僕のフォローに入る。

「先生。伊織君は盗み食いなんてしませんよ?」

噛み合わない会話にハテナマークを浮かべる顧問を尻目に、「だよねー」と花野と僕は笑いあった。

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