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僕ら× 1st.

第10章 修旅 --Khs,Ior,Mkt

~依田晄志side~

あの後、気分を害した速水が「もっかい風呂行ってくる」と騒がしい部屋を抜け出したので、俺もついて行った。
湯につかりながら星を見る速水に、宮石との結びつきのカタさを覚える。

その帰り道、中庭で涼む。
周りに人がいないことを確認してから口を開く。

「俺、医者志望なんだけど、速水も医療系に進むのか?」

まだ進路なんて決まっていない連中が多いけど、速水ならもう定めているんじゃないかと思って尋ねてみた。

「俺は経済、経営方面」

「え?薬学プレ取ってるから、俺はてっきりそっちかと」

だって、薬学勉強してるのに文系?

「あれは趣味」

"趣味"っていうか…。

「宮石が取ってるからか?」

「そうとも言う」

「医者じゃなかったのか…残念」

大学も同じなら、心強いと思ったんだけどな。

「医者か……。俺がもう1人いたら、なりたいな」

「宮石は?」

薬剤師とか似合いそうだな…。

「それは本人に聞いて。明日会える」

うん、速水のこういうとこ、いいよな。
知ってるだろうけど、当人の了解なくは口外しない。

では宮石を大切にしていそうな、宮石には特別に優しそうな速水が、あの時なぜ?

「…宮石のこと、もう泣かせんなよ?」

泣かせたら俺が…というのはやめておいた。
そんなのこいつにとっては脅しにはならない。

「泣かせるつもりは一片もないよ」

「去年、屋上で泣かせてただろ?写真を撮られる前に」

小一時間くらい宮石がグスグスしてたの知ってるぞ?
尋ねると、速水は隠すでもなく話してくれた。

「ああ。あれは、俺の方が泣きたかった……俺、弟扱いされて。しかも可愛いとか言うし、ちょっとムカついたんだ。"姉弟だなんて思ってない"って言ったらああなった」

「弟?お前が宮石のっ?弟?」

どう見ても妹キャラな宮石に、可愛い弟にされたとは……心中お察しし、いけないとは思っても笑いがこみあげる。

「笑ってごめん、伊織」と言うと、ヤツは気にするでもなく「いいよ、晄志(コウシ)」とニッと笑った。

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