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僕ら× 1st.

第13章 ク"ニコ"ム --Shu

照明の乏しい静かな廊下を戻る。

「なぁ、伊織。さっき親父さんが言ってたこと気にするなよ?」

それには答えずに、伊織は歩くスピードを早める。
アルたちが寝ているリビングを通りすぎ、個室に繋がる階段を行く。

情報漏れを警戒してるのか?
俺もそれ以上、何も言わずにヤツについて行く。

伊織は自分の部屋の鍵を開け、俺を招き入れた。

「柊兄…どうもおかしい……」

伊織はベッドに座り、俺は大きなクッションに身を沈める。

「何が?もうおかしいことだらけだろ?」

この家の秩序自体。

「まぁ、そうだな……柊兄は、俺を匿った家族を知ってる?」

花野ちゃんの家のことなのだろうか…?
でも、彼女とその兄貴たちは無事でいる。

それに、あの家族写真を俺が見たこと、そしてマコちゃんから両親の事故について聞いたことは一応秘密だ。

「いや、よく知らねぇ。お前は突然やって来た。もう5年前になるか?」

「そう…柊兄。何か親父に弱味を握られてるの?」

こいつは、やっぱり油断ならねぇ男だな…。
否定したところで猜疑心を増すだけ。
なら、教えてやるか。

「俺の彼女…彩華さんが世話になっているのは、親父さんの管轄なんだ」

「それがどうしたの?……脅されたの?」

「はっきり言われたわけじゃない。でも」

「人質ってことだね…親父のやりそうなことだな」

「そうだ」と言うと、伊織はぎゅっと目をつぶってうつむいた。

「だから、アル兄と2人で親父の仕事を請け負ってるの?やりたくもないのに?」

「…そうなるな」

眉間にシワを寄せて頭を僅かに傾け、俺を見る。

「辛くない?」

「辛いなんて考えたら敗けだ。今あるものを大切にするための道だ」

「…柊兄って深いね」

それは、俺の業か?懐か?
再び伊織は目を閉じた。

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