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僕ら× 1st.

第2章 バンド始動 --Ior,Kn

先生は焦って周囲を見まわす。
こちらに背を向けて近くの席に座っている女教師が、静かに肩を揺らしているのに気づいて、困ったように僕を見てため息をついた。

「大丈夫だって。僕、ハニィの兄貴に半殺しにされたくないもん」

そうだよ、のんきな彼女の後ろに控える2つの大きな影を見過ごすわけにはいかない。
宮石和波(カズハ)と宮石帆澄(ホズミ):あの2人、僕の兄貴たちときっと同類だからなぁ。

「宮石帆澄か。ああ、ヤツは、やりそうだな」

「先生、知ってるの?」

帆澄兄は、こちらの学校は高校からのはずなんだけど。

「知ってるよ。俺は中学教師だから直接は知らないけど、1v16事件には震撼させられた。あいつ、元気か?」

「元気じゃないところを見たことがありません」

関係のない教師の記憶にまで残る帆澄兄の事件というのが少し気になったけど、先に職員室を出された彼女がどこかで待ってるだろうし、どうでもいいやと消し去る。

「そっか、そうだよな。宮石の妹か…おとなしそうだったけど、いまいちつかめないコだな。もしかして強いの?ああ見えて、何かの有段者?」

「あはっ、最強かもね」

ありえないけど、もし彼女が指示を出せば、兄貴たちは確実に獲物を仕留めるだろう。
僕だって、彼女を守るためなら参戦する。

「マジで?」

天然培養のハニィスマイルは、老若男女問わず有効だ。
先程は先生にも少なからず効果あったからなぁ。

僕や兄貴たちが北風なら、彼女は太陽…いや、月?鳥?やっぱ花かな…じゃあ、帽子も上着も剥ぎとれないか。
いいや、きっと旅人は……。

ひょろっちい先生が、道着の着方もわからない彼女の格闘中をイメージするのに戸惑っているさまを見つめながら、僕は彼女とよく読んだ寓話を脱線させていた。

「先生、さっきちょこっとハニィを苛めてたもんね?僕だって有段者だよ?知ってる?」

「お前、教師を脅すなよ」

「忠告返ししたまでだよ。じゃあ、長居すると恥ずかしいことを叫んじゃいそうだから、僕もそろそろオイトマするね」

先生の正面に座る僕は、さっきからすごく気になってたんだ。
彼女はきっと気づいてなかっただろうけど。

「何じゃそりゃ」

「先生、許可をいただき、ありがとうございます。よろしくお願いします」

「チャックあいてるよ?」と付け加えて、職員室をあとにした。

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