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僕ら× 1st.

第14章 P波 --Khs,Ior

「1人ね。息子がいる。残りは凍結されて…でも、もう諦めなきゃな……彼女に子どもを抱かせてやりたかった。あわよくば、胎動を感じて、

大きくなった彼女のお腹を撫で、微笑み合って、幸せに浸りたかった」

それが家族なく育った小柴さんの、潰えた夢のひとつ。

あの家に住む大人の中に、彼ほど血の通った人間がいるだろうか。

僕は聞きたくないけれど聞かなくてはならない、その言葉を口にした。

「彼女さんは?」

「……彼女は親父に気に入られてね。薬に浸けられて今も療養中だよ」

彼は、他人事のように口角を上げる。

「あぁ、そんな……」

花野をそんな目には絶対にあわせない。
あわせてたまるものか!

言葉に詰まった僕の横で、彼は苦しそうに顔を歪ませた。

「親父は3年もしないうちに飽きて、彼女は俺のもとに戻ってくると思ってたんだ。息子には親だと名乗れはしないけど、会うことはできる。それだけで幸せになれると思ってた」

もしかしたら親父の恩赦で、彼女の子宮に移植できるかもという淡い期待と…25年以上も寄り添って。

先代の部下であったというだけで。

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