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僕ら× 1st.

第14章 P波 --Khs,Ior

秋の空は高く晴れ渡り、攻めいる駒は充分だと僕に警告する。

時間を稼ごうにも意味はなく、一呼吸の後、僅かに僕から目を反らして彼は話しだす。
小柴さんには約25年前に始まり、柊兄には4年前、僕には本日からの終わりの見えない重い鉄の鎖。

「お前の特定の彼女……美波の姪だな?」

敢えて名前を出さずに遠回しに言うあたり…。

「……はい」

「うまくいってる?」

「さっき窓から見たでしょ?」

僕と笑っていた花野を。

でも、言わんとすることはわかる。
もう、この先は聞きたくないっ。

両耳を塞ぐ僕に容赦なく入り込む、そのテノール。

「言い方を変えよう…別れる予定はない?俺だって、恩人の忘れ形見を守りたいんだ」

来春に告白して、本格的につきあおうと考えていたのに。
未来永劫、花野と歩いていこうと、心に決めているのに。

シロツメクサの花びらが反り返り、空を舞う。

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