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僕ら× 1st.

第14章 P波 --Khs,Ior

「速水伊織が死ぬこと。事故に見せかけて存在を消す。別の男として俺の傍で潜んでろ」

やはり、そんなに甘くはなかった……。
現実は、自分の想像の限界を軽く上回る。

「偽名を使うの?」

「プラス顔を変える。費用は俺が出す」

「……それが、"優"……」

「その上の、"秀"はないんだ。悪いな」

謝る小柴さんに、俺は首を横に振ってはみせるけど。

僕が僕じゃなくなって…、花野から…忘れ去られる……?
次に出会っても、もう僕とは気づかれず、初対面……。

その前に、僕が死んでも花野は平気でいられる?
花野がどれくらい僕を想ってくれているかわからないけど、そんなことしたら悲しむんじゃないかな……。
泣くんじゃないかな……。

それに、僕は…僕もっ、絶対に泣く……。
正気じゃなくなるかもしれない……。

口を僅かに動かすだけで言葉を出せなくなった僕の肩を、小柴さんがポンポンと優しく叩く。

「また声かける。彼女との行動は慎め」

小柴さんのクルマが出た後も、暫く動けずにいた。
縁石に座り込み、コンクリの肌触りを確かめる。

予想通りザラザラした感触。
拳を打ちつけると、擦れて痛みが走る。
…どうしても現実か。

この広い世界で、彼女に最も接近して生を受けたことで、僕は運を使い果たしたのか?

小柴さんから貰ったボトルのキャップを開け、うつむいた頭にかける。

前髪から雫がポトポト落ち、僕の視界も歪む。

ズボンの膝に水滴が滲むのを見ながら、僕の人生を狂わせる影に対する、初めての計画が回り始める。
憎悪を最大限かき消して、飽くまで綿密に。

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