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僕ら× 1st.

第15章 学校祭 --Ar,Shu,Ior

***

花野を送って幸せに包まれて返した僕は、小柴さんのクルマの中。
僕の手には、やっぱり常温ボトル。

彼は一言も発さない。
僕に会話の主導権を委ねる。

「どうしようもなく後ろ向きで、"あの日に帰りたい"としか思えない時は、どうすればいい?」

それは単純な疑問を装った小柴さんへの挑戦。

これから先、僕は何度も繰り返し思うだろう。
届かない幻想を見つめて苦しむだろう。

"そんな弱い僕を、あなたは見捨てますか?"

これが、小柴さんへの質問の核心。

彼は思い巡らせる。
ぽつぽつと穏やかに言葉を紡ぐ。

もう何度も虚無を味わった、彼の中の真実。

「たとえ光の速度を凌駕したって、過去の風景にたたずんだとして、自分は"過去"にはなれない。
過去に在る"現在の自分"でしかない。
過去の世界にいる恋人を奪ったとして、奪われた過去の自分はどこへ?
正体不明の自分に連れ去られ、奪還の時を密かに待ったという都合の良い記憶があるか?
そのパラドックスは誰かを殺すだけでなく、誰かの生を紡ぐことも許してはくれないだろう」

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