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僕ら× 1st.

第3章 2人の証 --Ior,Hzm

~速水伊織side~

5月なかばから週2回の間隔で、彼女と音楽室での練習が始まった。
音色で会話する、とても心地いい空間。

「今のドラムソロ、すごくキラキラしてた!」

「そう?父さんがこんなふうにしてたなあと思って」

「素敵なリズムだねっ!この曲に入れようよ!」

「じゃあ、もっとほかにも試してみる」

「今のもよかったよ?」

「ん、も少し」

ジャズではスティックを持ちかえた控えめなドラムも多いが、それも腕の見せどころ。
どんなわずかな音でも、彼女は感じてくれる。
彼女の旋律を守り引きたたせる、それが僕の仕事。

僕がドラムソロに試行錯誤していると、顧問が入ってきた。

「根岸先生、こんにちはー」

「今日もがんばってるな。はい、さしいれ」

顧問は完全に、彼女へのレッテルを解いたようだった。
笑顔で彼女に白い箱を渡す。

「ケーキですか?わーいっ!ありがとうございます」

箱に貼りつけてあった人気ケーキ店のラベルに、テンションアップの彼女。
さっそく、食器類をしまってある戸棚に走り寄る。

「僕にも?」

「3つ入ってるよ!先生のぶん?」

「おお。買いに行ったら、うまそうで俺も食べたくなったし!宮石、こういうの好きだろ?」

嬉しそうな彼女を見て、満足げな顧問。
僕は甘すぎるの苦手なんだけどな。

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