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僕ら× 1st.

第3章 2人の証 --Ior,Hzm

「先生、薄給なのに新聞部の連中にもあげてんの?」

僕は、さしいれの意図を探る。
僕たちへの特別なのか、彼女への特別なのか。

「…お前のぶんなし!」

「構わないよ…」

「可愛くないな。食え」

僕と顧問のやり取りに、はっと振りむく彼女。

「先生、新聞部って何人ですか?ここに来てもらってみんなで分けよう!」

「18人もこの部屋に呼べないよ。ケーキなんて似あわない、むさい男ばっかだし」

「僕もそのなかのひとり~」

「新聞部にまじったら、速水が一番可愛いかもな」

先生は、僕に仕返しをしてやったとばかりに口角をあげる。

嬉しくないよ…と思ったけれど、僕はオマケではないと理解し、少し頬を膨らませる程度の抗議で済ましておいた。

「21分の1、7分の1…」と、彼女はフルーツがこんもり乗ったカットケーキ3個を前にして、どうやって切ろうか考え始める。

いや、無理だろ…とは、思っても言わない僕。
何でもないことで焦っている彼女を見るのは楽しく、とってもいとおしく思える。

彼女が突然、「あっ!」と短い声を出す。

「フォークがそんなにないっ!」

「ヤツらのぶんはまた別に買うから、今日は3人で食べような」

顧問はひとりであたふたしている彼女を見て、救いの言葉を述べた。

これは僕たちへの感謝ってことか。
そして今後もバンドを続けろよという指示。

僕たちの顧問を務めることは、根岸先生にとってメリットだから。

上機嫌を取りもどした顧問は、大口を開けてケーキをほおばった。

夕方、彼女と一緒に帰る。

「バンド楽しいね。誘ってくれてありがとう」

彼女の笑顔が何よりの喜び。
そして、今日も終わっていく。

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