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僕ら× 1st.

第16章 Lost --Khs,Ior,Kn

僕の帰宅から半時後、柊兄が僕の部屋を訪れた。
僕の分の夕食のトレイを持って。

泣き腫らした目の僕は、うつむきがちに対応する。

「これ、聞いてみろ。俺がマークしてた女だ」

昨日の日付が入った封筒を渡してくる。

「柊兄が狙ってる女?」

誰かの演奏?
そんなの聞いたって…。

「違う。危険だから盗聴していた女」

盗聴?仕事か?
でも今すぐには、手伝う気にはなれないんだけど。

「危険?」

どう危険だって言うんだろう。

「聞けばわかる……花野ちゃんからバレンタイン貰ったのか?」

僕の机の上を見て、そう尋ねる。

「うん……」

「で、感動して泣いてたんだ?」

そりゃバレてるよな。

「ああ、そうだよ」

僕は素直に認めた。

「お前がこもってるから、アルも心配してる」

顔を無理に覗き込もうとはせず、柊兄は僕の真新しい宝物を見つめる。

「ああ、朝にはもう大丈夫」

「ホワイトデー、100万倍で返してあげろよ?」

卒業式前日、僕は彼女に渡せるだろうか…。

かけがえのない彼女から、世界でたったひとつの気持ちを貰った。
絶望を進む僕に、勇気を。

「…柊兄、今日何があったか知ってるの?」

ひとりでここに来るあたり、何か知っているんだな。
彼女の後ろをつけ歩く僕でも見られたか?

「これ、聞けばわかる。手放すなよ?絶対に後悔する」

「……知ってるんだね」

夕食トレイと共に柊兄が去った後、渡された封筒に入っていたディスクを再生した。

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