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僕ら× 1st.

第16章 Lost --Khs,Ior,Kn

と、伊織の顔が"ふっ"とほころぶ。
……俺も見つけた。
廊下を抜けて駐車場へ向かう宮石を。

「この大きさだったらなぁ」と、遠くの彼女に手を伸ばし、ポケットに入れるふりをする。

「俺はもう、花野から大切なものを貰ったから。これ以上は贅沢。だからお前も俺に遠慮するな?」

"大切なものを貰った"?
彼女を抱いたってこと?

なのにそんなこと、言う?
他の女とつきあったりする?

「どういう意味だよ?お前、宮石を!」

カッとなった俺を、片手の威圧感で制す。
そして彼女から目を離さずに、兄貴のクルマに乗り込むまでをずっと追う。

クルマが走りだし見えなくなると、今まで見たものを閉じ込めるかのように静かに目をつぶった。

そして悲しげな瞳で笑いながら俺を見る。

「もういいぞ?殴りたきゃどーぞ」

そんな姿を見せられてから殴れるわけないじゃないか…。
何があったんだよ?
俺に、話してくれよ……。

「いつか連絡するよ。それまで俺のこと、覚えててくれな?花野をよろしく。

お前がいてくれてよかった」と。

それきりヤツは何を尋ねても、力なく首を横に振るばかり。

そして、俺が朝早くに竹崎にお返ししたホワイトデー。
自宅に戻り1人で居間に座っていた俺は、即席ラーメンがあと30秒足らずでできるのも忘れて立ち上がる。

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