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僕ら× 1st.

第16章 Lost --Khs,Ior,Kn

翌日の卒業式に宮石は姿を見せなかった。
当然伊織も……。

担任の根岸は生徒の卒業式だというのに、ずっと暗い顔をしている。

式に送り出す教壇で、はなむけの言葉を詰まり詰まり話す。

心ここにあらず。
それは俺たちも同じだった。

体育館に向かう俺たちを、校舎の2階から吉坂が眺める。
宮石を探してるんだろうか…。
それとも、弟を?

吉坂が伊織の兄貴だというのは、昨日初めて知った。
会話の流れで2人の兄弟を出した和波さんは、俺と小津がそのことを知らなかったことに気づいてそれ以上は深く話さなかったけれど。
複雑な家庭環境があるんだろうな。

そんなこと微塵も感じさせない伊織だったのに。
吉坂も、伊織の奇怪な行動の理由を知らない風なのに。

配られた文集をめくる。

『宝物をありがとう

ずっと大切にするね

また逢える未来を信じて

速水伊織』

これを書いたのは文化祭の頃。
卒業文集なんだから、お別れっぽくて当然だけれど。

ほとんどが隣の高等部に進むのに、"また逢える未来"ってのはおかしくないか?

伊織はこの別れを予期していたのか?

考えても当の本人がいないんじゃ、な。

やるせない思いにかられたまま、俺たちは高校に進む。

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