テキストサイズ

僕ら× 1st.

第17章 水の中 --Khs,Ar,Thk

***

入学式に現れた彼女の髪はショートボブになっていて、何か余計に幼く見えた。

春休みに渡したドラマが面白かったので、もう少し貸してとお願いされ、とても嬉しくなる。

「宮石、ちゃんと食べてる?」

ふっくらしていた頬が薄くて、辺りを舞う桜の様にはかなくて。

「食べてるよ。ほら、おやつも持ってきたの。どう?」

ポケットからグミの袋を取り出して、俺に差し出す。
高校の入学式におやつ持参…、とっても宮石らしくて。

「じゃ、ひとつ貰お」

レモン色のそれを一粒、口に放り込む。
それを見て、宮石も一粒。

「依田君、同じクラスね。よろしく」

薬学の試験も受けていたので予感はしていたが、宮石も医療クラスだった。

「うん、よろしく…宮石も医療系を目指すの?俺、医者志望なんだよ」

ずっと聞けなかった宮石の進路、今になって。

「うん。私もお医者さんになりたいの」

医者?
そうだったのか……。
水族館とどんな関係が?

「そっか。暫く一緒だな」

「そうだね」

彼女と同じ道をいく。
きっと大学も彼女と一緒。
もしかしたら就職先も。

これ自体はとてつもない朗報なのに、ヤツがいない、それだけで素直には喜べないんだ。

それだけ大きな存在だった。
謎を残したまま、速水伊織……。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ