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僕ら× 1st.

第17章 水の中 --Khs,Ar,Thk

短いはずの春休みが長く感じる。
花野ちゃんはどうしてるだろう。

落ち込まないわけがない。
あいつのことを5年程しか知らない俺でさえ、なんだから。

伊織の消息をつかめないままに新しい学期が始まる。

入学式が終わると、俺はすぐに花野ちゃんの教室へ急ぐ。

花野ちゃんは白衣の職業を目指すんだな…。
俺も研究室では着るけどね。

帰り支度の彼女をつかまえて、鞄に押し込んでいた箱を取り出す。

「あいつの部屋を覗いたらさ、机の上にこれがあったんだ。花野ちゃんに…」

「私に?」

「そう。できれば俺にも中身を見せてほしい。何かあいつを探す手懸かりになるかもしれないから」

「わかりました」

と快く了解した彼女だったが、"Dear my sweet"の文字で動作を止める。

「これ、私宛じゃありません」

「花野ちゃんしかいないよ」

あの別れサセコであるわけねぇ。

「私じゃ、ないっ」

伊織の書いた文字を指でつっとなぞる。
ポタッと彼女の瞳からこぼれる。

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