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僕ら× 1st.

第17章 水の中 --Khs,Ar,Thk

春の光が差し込む中等部の音楽室。
休みのうちは誰も使っていなかったらしく、ドラムセットは片付けられ、ピアノにはうっすらと白い埃が積もっていた。

ここで幸せな時間を過ごしたはずの2人。
そして、俺も。

「あんま変わってねぇな…あれから2年と少しだけど」

伊織が帰ってきてからは、覗くこともなかったからな。

「そうですね。あの、先パイ。3年生は明日からじゃないんですか?」

「うん。入学式を見たくなってね」

キミが心配だったからだよ…。

「ですね。伊織君の入学式ですものね…」

そんな感傷に浸ってはいねぇけど…。

「吉坂先パイ。今朝にいただいたチョコ、開けてもいいですか?」

「おう、俺にも1個くれる?」

「どうしよっかな?」

そう言いながら、彼女は俺の手に乗せてくれる。

「ふふ、おいしいっ」

軽やかな足取りで彼女は窓を開け放ち、掃除を始める。
俺もロッカーからホウキを出す。

掃除の順番?
昔、誰かに"上から!"とかケンケンと注意されたな。

花野ちゃんにも言われるかな?
どんな顔で言うんだろ?
伊織がクッキーに手を伸ばした時みたいに、優しげに言ってくれねぇかな?

そんな俺の期待むなしく、彼女は机の上を拭き回る。
メロディを口ずさみながら。

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