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僕ら× 1st.

第17章 水の中 --Khs,Ar,Thk

掃除道具を片付けた花野ちゃんは、手を洗う俺にミニタオルを貸してくれた。
鞄にしまいながら、"はっ"と手を口に当てる。

「あ、私。お兄ちゃんに連絡しなきゃ。先パイ、すみません」

「うん、俺が引っ張ったから…悪ぃな。今、待ってるの?」

「今朝ここまで送ってもらって、そのあと先生と話があるって言ってたから、校内にいるはずです」

「じゃ、ここに来てもらおっか?和波さんだろ?」

「はい!呼んでみますね」

彼女と2人きりにもなりたかったけど、あの兄貴と雑談するのも悪くない。

ツヤを取り戻したそのピアノを彼女は奏でる。
ずっと同じだけど違う曲。

彼女曰く、"虹の彼方に変奏曲"。

彼女の前の楽譜を覗く。
有名なメロディの、その歌詞なんて今まで知らなかった。
彼女に出会うまで、音楽に興味もなかった。

青い鳥が虹を越えられるなら、私にだってできるはず。

頼むから、伊織のあとを追うなんて真似はすんなよ?

そういう意味じゃないもんな。
夢を叶えようとする歌だよな?

だけど、もっと前に出てもいいんじゃねぇかな?
夢を叶えるには、思うだけじゃダメだ。
1日1歩でも半歩でも歩かないと、千里には辿り着かない。

そう思いながら、おたまじゃくしの群れを眺める。
この楽譜……手書きだな。
もしかして、花野ちゃんがアレンジしたのか?
ところどころ修正が見える。

たどたどしくも始まった旋律が、歩きだしそうになった後、オルゴールのようなピンッとはじける調子に変わった。
セピア調の遊園地を彷彿とさせる。

伊織を想って弾いてるんだよな?
俺もこんなに想われてぇな……。

…思うだけじゃダメなんだ、俺も。

途中で和波さんが入ってくる。
自分の世界で弾き続ける彼女の音を聴きながら、俺たちはPCで筆談する。

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