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僕ら× 1st.

第17章 水の中 --Khs,Ar,Thk

変わりに兄貴は、俺との出会いを語る。

『吉坂君と初めて会ったのは雨の冬だったな。傘を盗られたんだったね』

柊が仕組んだあの相合傘。
自分の傘を俺に渡せばいいものを、和波さんは花野ちゃんと俺の一本を奪わなかった。

『もしかして、わかっていてクルマまで歩かせてくれました?』

粋な兄貴はニッと笑う。

"ありがとうございます"と俺は頭を下げた。

『俺、あの日が最後だと思ってたから、少しでも一緒に歩きたかったんです』

こんなこと、彼女の兄貴に言わない方がいいのかな?
でも本心だし、感謝してるし、もうバレてるし。

そのために和波さんもこの話題を振ったんだろ?

『キミのその物怖じしないところ、いいね。今、ピアノ弾いてるのもキミが促したんだろ?』

当初は本当に近づけなくて、笑っちゃうほど気弱な俺だったけどな。

もう一度オルゴールが回りだす。
全ては夢の中の出来事のように。

『褒めてるんですか?』

『褒めてるだろ?このあと昼ごはん一緒に来る?花野もキミがいた方が食が進むかもだし。あ、ツレがいるんだっけ?』

花野ちゃんが両膝に手を下ろすと、和波さんは彼女に声をかける。
俺は柊を呼び出し、4人で昼食に出掛けた。

俺たちがおまかせランチを食べている横で、彼女はフルーツ盛り合わせを美味しそうに食べた。

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