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僕ら× 1st.

第17章 水の中 --Khs,Ar,Thk

***

俺が伊織にあげた箱。
伊織と俺にしか開けられない箱。

帰宅後の俺の部屋で、柊が見守る中そっと開く。

カチッと小さな音がした後、メロディが流れだす。
オルゴールを取りつけたようだ……。

「この曲、知ってる?」

「俺に聞く?……オルゴールにしか聞こえねぇな」

柊に尋ねるも、最初っから期待なんてしてねぇからこんな答えで仕方ねぇ。

青と白、2色のリボンのついたボタンが中に入っていた。

制服のボタン。
2年前に俺も彼女に渡した。

でも、伊織は卒業式に出席しなかった…彼女に渡せなかった。

「伊織、花野ちゃんなんだろ?お前のスイートって」

呼び掛けても、返事があるわけない。

「このリボン、花野ちゃん知ってるかな?」

絶対に花野ちゃん由来のリボンなはず。

だけど柊は言う。

「知ってたとしても、泣かすだけだ」

そうだよな。
花野ちゃんから伊織との思い出を聞き出すなんて、酷だよな。

それに聞き出せたとして、それは結果に繋がりはしないんだろうな。

普通のボタン。

ずっと彼女を想っていた伊織の胸のボタン。

盗聴器でもついていれば、冥界の伊織と話ができるかもしれないのに。

「イオ、……」

最後の文化祭だからと招待された。
あれはこういう意味だったのか?

こうなることをわかっていたのか?

花野ちゃんと別れて、他の女を引き連れて。

何のために?

連絡ひとつ寄越さない親父も、何か知っているのだろうか?

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