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僕ら× 1st.

第17章 水の中 --Khs,Ar,Thk

それきり黙りこくった吉坂。
当の本人は、ノクターンの有名なやつ。

吉坂を可哀想に思った私は、間を開けようとそっと音楽室を出た。

と、ドアのすぐ横に男が立っていて驚く。

「なっ、何してんの?」

「暇だったから…ね」

ニコッと愛想よく笑う。
来るもの拒まず、去るもの追わずの本條柊。
これで吉坂と親友だってんだから、世の中わからない。

「ねぇ、吉坂っていつから花野なの?」

弟の横にいた彼女を、いつ見初めたん?
報われない恋をいつから?

「心配してくれてんの?でも内緒」

本條は私をじっと見つめ、そっと笑う。

「あいつ許容範囲が狭すぎて、他の可愛いコに言い寄られたって見向きもしねぇ。ま、今は理想を追ってたらいいかと思ってたら、こんなだし」

「普通に別れただけじゃないんだもんね」

死別、それは理想化され永遠に越えられない壁となる。
元彼であっても?

「まだ決まってない。伊織はそんな簡単にくたばりはしねぇよ」

絶望的な状況でもそう思いたい、気持ちはわかるよ。

「でも、事故の前に別れたんでしょ?速水が生還しても、もう花野とは」

「どうだろうね」

そう言って、彼はドアを開けた。
軽くあしらわれて思考停止の吉坂を救うため?

私を見て「どうぞ」と入室を促す。
やっぱ吉坂とは違うわ。

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