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僕ら× 1st.

第18章 雲の中 --Shu,Kn

春休みが明けると、お兄ちゃんは海外の大学に戻った。
休学するってお兄ちゃんは言ってくれたけど、そういうわけにはいかない。
優しいお兄ちゃんの足を引っ張りたくない。

振り向いている間にも始まった高校生活。
マコや依田君、桃湖、吉坂先パイまで気にしてくれているのがわかる。
なのに私は気の効いた返事もろくにできなくて、みんなを困らせちゃう存在になっていた。

あーあ、学校行きたくないなぁ…。

でも、目標のためにはちゃんと通わなくっちゃ。

事故にあった伊織君。
どこでどうしているのかわからない。

そのうちに伊織君に会える場所……。
それは、ここじゃないかな?

人の生命が特に動く場所。

だって彼が帰ってこないのは、きっと記憶をなくしたから。
だから戻って来れないだけなの。

彼女との旅行で、自分だけが助かるなんて、耐えがたくて記憶を閉ざしたの。

現在は、どこかで身体を休めているの……。

そこに光を見いだした私は、この春、志望学部を変更した。

そしたら、伊織君が現れるんじゃないかって自分の中で計算をして。

学会やケース発表ででも、情報をつかめるかもとか思って。

それに、もしも、昔の記憶が残っていれば、お医者さんを目指しているかもしれないから。

非科学的なのはわかってるけど。

とにかく、彼に会える確率の高いほうへと。
私は彼に向かって進んでいると。

そう考えないと、動く力を失ってしまいそうだから。
ベッドに根っこを生やしそうだったから。

"僕は花野を置いて逝ったりしないよ"

抱き締めて、頬にキスをしながらそう言ってくれたもの。
伊織君が私に嘘をつくはずがないもの……。

だから彼は生きている。

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