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僕ら× 1st.

第18章 雲の中 --Shu,Kn

「それ……イオの?」

はっきりと聞こえたその声は、本体が彼ではないことを教えてくれた。

肩越しに吉坂先パイが、私の持つ図書カードを覗き込む。

あー、びっくりしたぁ。
私もうちょっとで、魂が口から飛び出そうだったよ……。

「そうです」

ドキドキを押しやりながら、吉坂先パイに足がくっついているのを確認する。

伊織君の声かと思ったけど、よくよく聞いてみれば先パイだぁ。
似てて当然、お兄さんだものね。

「伊織君の読んだ本です。難しすぎてなかなか進めないんですよ…」

と、見つけた目当ての本を取る…。
埃を薄くかぶった本、最近は誰も読んでなさそう。
てことは、この前にこの本を読んだのは伊織君かも…?

ぴらっとめくると。
うっ…漢字だらけ……。

「それ、読むの?」

「な、泣きそうでしゅ…」

情けない気持ちでいっぱいになる。
これじゃあ、何十年かかることやら。

「ぷっ、あははっ!」

ひとしきり笑った後、先パイが言った。

「半分、俺が読もうか?で、感想を教えあう」

「そう言ってもらえるのは嬉しいですけど…先パイ、進学に向けて大切な時期じゃないですか。それに私の中に入れたいので、お気持ちだけいただきますね」

そう、私の中に伊織君を少しでも入れるんだ。
私の中の伊織君を、更に伊織君らしく育てるんだ。

「そう…、イオはいいな」

私の持つ図書カードを取り、しげしげと眺め始めた。

「まさかこれ、何枚もあるの?」

「そうです。伊織君、本が好きだから」

「趣味程度にしときなよ……あ、この後、ちょっと出掛けね?」

「え?……っくしっ、ぐしっ」

突然始まった私の連続くしゃみで、先パイはまた笑い出した。

この部屋の埃に反応しちゃったよ。
今度は、マスクして入らなきゃ。

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