テキストサイズ

僕ら× 1st.

第19章 雲の上 --Tk,R

「宮石花野です」

うん。
キミの名前も住所も家族構成も趣味も、毎年の誕生日もバレンタインも、過去の誓いも、笑顔も泣き顔もぜーんぶ伊織の中にあるよ……。

と、あることを思いつき、胸の内ポケットに手を突っ込む。
中身を外して彼女に渡す。

「名刺ケース、使って?」

ツヤ消しシルバーの、何の変鉄もないケース。

「え?いいんですか?」

「もうひとつ持ってるんだ。軽くて丈夫だし、花野ちゃんにも使ってほしい」

また同じものを買うからいいんだ。

「ありがとうございます!大切にしますね!」

と、俺の名刺を入れて「ぴったり」と笑う。

「あ、"P.S.I LOVE YOU"って書いてありますけど、本当にいただいてもいいんですか?」

「うん、いいの。花野ちゃんはビートルズのこれ、知ってる?」

「……はい。戻ってくると…いう歌詞ですよね?」

キミは瞳をぱちぱちとする。

「そう。この曲は俺の想い、まんまなんだ。……俺はね、ここに彼女との写真を入れてるんだ」

名刺ケースの蓋の裏を指で示す。

「あ、もしかして今隠しました?」

濡れた瞳でニコと興味深げに笑うキミ。

「ふふ。俺の秘密だもん」

キミに見せるわけにはいかない。

「ふふ。私は何を入れようかなぁ」

伊織との写真は、入れてはもらえないかな?

だけど、ふふ。
キミとお揃いのもの、また増えた…。

そしてキミに、伊織の想いを伝えられた……。
あの箱を、あのボタンを渡せなかった、その替わりに。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ