テキストサイズ

僕ら× 1st.

第22章 遭難 --Shu,Ar

~吉坂侑生side~

マスカレイドの賑わいの離れた音楽室で、花野ちゃんと踊る。
ステップの練習という名目で。

俺と手を繋ぐのに躊躇する彼女だったけど、ぐっとつかんで強引に始める。
俺が動き出すと、彼女は抵抗を諦めてついてくる。

俺がダンスを習ったのは小学生の頃で、女と踊るのが嫌で嫌でどうしようもなかったけど。
今ならわかる、彼女と息を合わせて、ひとつになれるような感覚。

俺がしっかりと覚えているのはボックスステップくらいだけど。
少しでも、習っていてよかった。

俺のケツを叩いて教室に通わせた…小柴のおかげだな……。

彼女が近づく度に伊織の香りを吸う。
香りの元は……首の後ろ?いや耳の後ろ?

もう聞いた方が早い。

「花野ちゃん、香水つけてる?」

左耳に問うと、振り向いた彼女が俺の顔を見上げる。
お、俺っ、この角度……好きっ。

「つけてませんよ?」

「え?…でも、フルーツっぽい匂いがするぞ?」

「そうですか?…あ!さっきグミを食べました!」

グ、グミかよ?
ああ、入学式でも貰ったな……。

そうなると、今まで俺はグミに妬いてたのか?

と、どこかで伊織が"あっは"と笑った気がした。
ついでに柊に"マヌケ"と罵られた気がした。

そう。
思い返すと、この時に約束を取りつけていればよかったんだ。
クリスマスを一緒に、過ごそうって……。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ