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僕ら× 1st.

第4章 風速0.64kt --Ar

見つけた!あのコだ!
俺は嬉しさを隠しきれず、笑顔で男に「ん?」と短い返事をした。

「何でもねーよ」

何が何でもないのか、もうどうでもよかった。
あのコを見つけた!にししししっ。

その男はそさくさと立ち去った。
俺に勝てないとふんだか?
賢い選択だ、俺は強いからな。

「吉坂先パイ?ありがとうございます」

俺の名前、覚えてくれた!
うっわー。
近くで見ると、めちゃめちゃ可愛い!

「いや俺、話しかけただけ。何もされなかった?」

デレっと崩れそうな顔を引きしめながら、俺は必死に優しい言葉を選んで尋ねた。

「はい、おかげさまです」

俺に、ニコっと返してくれる。

「うん、よかった…俺、吉坂侑生っての。アルって呼ばれてるんだ。キミは?」

ここまで言って、俺もあのナンパ男とたいして変わらねぇなと気づく。
まあ、ヤツはしつこかったけど…。

「宮石カノです」

彼女は微笑みながら教えてくれた。

「カノ?どんな字?」

「花に野原の野です」

「そう、花の野原か、いいね。宮石…花野ちゃんね。よろしく」

やった!名前ゲット!

お礼を述べた彼女の後ろ姿が渡り廊下から消えようとする頃、急接近に心を踊らせていた俺は初歩的な忘れ物に気づいた。
何年生か聞いてない!
いまさら、呼びとめて聞くのもな…。

よし、あとをつけよう。
と思ったら、くるっと振りむいて俺に再度深々と礼をした。
とっさに俺は笑顔を作り、開いた片手を彼女に向けて振ったんだ。

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