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僕ら× 1st.

第27章 牛、歩く --Mkt,Ar

***

「花野ちゃんって方向音痴だろ?」

きっと今、どこに向かっているのかも知らねぇな。

「そんなことないない。さっきはどこにお店があるのか考えずに歩いちゃっただけ」

靴屋だけじゃねぇ。
飲食店でも、出口を見つけるのに戸惑ってたじゃねぇか。

水族館では夢中になってるからかと思ったけど、やっぱ抜けてる…。
ひとりになんて、危なっかしくてできねぇ。

「東西南北、わかる?」

「えー?そんなのわかんないよ。磁石なんて持ってないもん」

なくても大体わかるけどな、太陽の位置とかで。
自分の進む方角がどれかくらい。
柊の方が正解率は高いけど。

俺の横には新しいスニーカーの入った袋、彼女の手には水着の袋。

昼食を済ませた後、再び柊の運転するクルマ。

「道を歩く時、何を目印にしてる?」

「ええ?ぱっと出てこないなぁ。前の人についていったら駅には着くし、それからは案内板があるし」

ついて行く?危ないだろ?

「それは止めろよ。前の人がどこ行くかなんて運次第だろ?」

「あんまり1人で歩かないけど、道路標識とか、スクールゾーンとか、勾配とかかな?」

標識?
そんなのそこらにあるだろ?

ま、動くクルマとかを目印にされるよりはマシか。

「そんなんじゃ区別つかねぇだろ?」

「ほら、あのおうちも……あの角のかけ具合と色味。うーん、見たことある」

「ぷっ」と運転手が吹く。

「……俺ん家です」

「え?あ、そっかぁ。じゃあ、ばいばい」

彼女はコートを持って、降りる準備を始める。

「ちょっ、待てよ。俺、彼女に家まで送ってもらったことになるじゃねぇか」

「ふふ、たまにはいいでしょ?」

俺たちの会話を耳に入れながら、柊はバックで車庫入れを始めた。

「寄ってかない?柊もいるから。見せたいものがあるんだ」

キミを外にあまり連れ出せないのなら、家でデートが最適なんだ。
俺が狂わないよう、アルロボを間にいれるから。

「……見せたいもの?」

「中学の頃からずっと作ってた。結構上出来だと思う。見て?」

「う、ん」

先に降りた俺は、彼女の手を引いた。

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