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僕ら× 1st.

第28章 カーバンクル --Ar,Kn

***

その夜の外は雪。
生きていれば17歳の伊織。
花野ちゃんは家で祝うんだろうか。
あいつの誕生日を。

リビングから窓を覗いてみるけれど、彼女の家は見えなくて。
そういえば、伊織もよくここに立って外を見てたよな。
彼女の家の方角を……。


「どした?アル」
奥のクッションに埋もれていた柊が、尋ねてくる。

「花野ちゃんの中に、まだイオがいるんだ」

「10年以上一緒にいたんだ。しゃあねぇ」

恋人以前にかけがえのない家族。
切っても切っても切れねぇ絆が2人にはある。

「俺、欲張りかな?全てがほしいんだ…心も、身体も」

「わかるけど、お前。店内であれはないだろ?」

「そんな法律はねぇ。……つきあってるのに俺だけが好きすぎて、辛いな」

「世の中、辛いことだらけさ。焦んなって。花野ちゃんはお前のこと、好きだよ」

「さんきゅ、柊」

そうだよな。
自分が満たされてないと強く思ってしまうけど。

去年の今日に渡したかったネックレス。
音楽室の虫騒ぎと、遭難とで渡しにくくて。
晩秋の頃に彼女の首にかけた。

伊織からのものを付けられないと、言った彼女を信じよう。

今日だって、咄嗟に敬語になっただけ。
そんなこと、誰でもよくあることだから。
何もマイナスに勘ぐることはねぇ。

彼女は現在、俺の恋人。
俺が彼女に好かれているのは、俺が彼女を好きだから、かもしれないけれど。
それで充分じゃねぇか。

それなら、もっともっと俺が彼女を好きになれば、彼女も引き上げられてついてくる。

イオの分も好きになってやると、そう言った俺にウソはない。

彼女が他の男の誕生日を祝ったって、それは仕方のないこと、だって。
ヤツは彼女の大切な家族、俺の大切な家族。

ハッピーバースデー、イオ…。

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