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僕ら× 1st.

第4章 風速0.64kt --Ar

「どっか行ったぞ」

俺たちがイヤホンを抜いたあと、柊は2人がいなくなった壁のチップをはずす。

「あいびき?」

「……まさか」

と言いつつ、距離をあけてついていく。
渡り廊下、手前。
会話が聞こえるところまで少しづつ階段をおりて間を詰める。

「……のこと、好きなの?」

「わかんない」

「じゃ、俺とつきあってもいいんじゃない?」

「うん。でもごめんなさい」

嵐前のこの暗さではふたりの表情はまったく見えなかったが、マスターは明るい調子で話しかけていた。

「即答かぁ。俺は、あいつよりいい男になるから、あとで後悔するよ?」

「うん、もったいないと思うよ?」

「そっか…また、友だちでいてくれよな。無視とかされんのは辛いし」

「うん。ずっと友だちでいてね?」

「わお、永久に昇格なしかよ」

「依田君。プレも一緒だし、これからもよろしくね?」

プレ?花野ちゃん、何とってるんだろう…?

「ああ。宮石、ありがとう。じゃ、気をつけて帰れな」

マスターの影が、彼女の頭を撫でたように見えた。
それからさっときびすを返した彼が、俺たちのいる階段に向かって歩いてきた。

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