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僕ら× 1st.

第4章 風速0.64kt --Ar

「なぁ、さっきの話に出てきた"あいつ"って誰?」

俺は、すれ違いがてらマスターに尋ねてみた。

「…あんたには教えない」

マスターは、一瞬足を止めて俺をチラッと見るが、愛想なく吐きすてて方向を変え、階段をおりていった。
あれ?教室に直接戻らないんだな……。

「お前、ちょっとは気を遣ってやれよ。さっきのヤツ、フラレたてなんだぞ?」

隣で一緒に盗み聞きしていた同罪の柊に非難される。
ああ、ホントだな。

「あ、悪ぃことした」

いやもう、彼女周囲の盗聴からしてはいけなかったんだと気づく。
こそこそと、こんなのフェアじゃねぇ。
俺、カッコ悪ぃ………。

それでも、仕入れたての花野ちゃん情報を反芻すると、にししっと元気がわいてきた。
今夜は彼女がおもしろかったと褒めあげたドラマのディスクを探すんだ。
って、あの手掛かりだけで探せるかな?

でもいいじゃねぇか、マスター。
俺なんか、きっとメモリーの片隅にさえ書きこんでもらえてねぇんだぜ?と自嘲気味に心のなかで励ます。

よしっ、落ちこみ終了。
世のなか、トライ&エラー、いつでも再起動だよなっ。

「ところで、フッた張本人は?」

柊が横から首を伸ばして俺を促す。
先程、ふたりがいた場所には人影はなかった。

マスターを追ったわけでもなし、一体どこへ?
俺たちは、そのまま渡り廊下にさしかかろうとした。

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