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僕ら× 1st.

第4章 風速0.64kt --Ar

渡り廊下、一面厚い雲におおわれてどんよりした空を、ガラス窓を通して見あげている彼女が目に入る。
先ほどより風が強くなったのか、街路樹が傾き煽られて、窓もガタガタと騒いでいる。

柊が俺の背中をドンッと押す。
お前、力入れすぎっと思ったけど、そうだよな。
何も言わずにここを通りすぎるなんてできない。
気軽に声をかけよう。

「っや!」

「…こんにちは」

振りむいた彼女の瞳は少しうるんでいた。
っ、俺は何もしてないぞ?
早くも身体に動揺がまわりだす。

フッたほうが泣く?わかんねぇ。
かといって、理由を聞くのもためらわれ…。
そうだ!会話に困ったら、天気の話を、だよな?

「いい天気だね」

言ってから、しまったと思った。
こんな荒れた天気を好むヤツなんてストームチェイサーくらいだろ……。

「…先パイは嵐が好きなんですか?」

"先パイ"と呼ばれたけど、これじゃ俺を覚えてるのかわかんねぇな…。

「ああ。うん、好きかな」

いや、今の間違い…。
けど、うまく説明する自信がねぇ…。

「じゃあ、いい天気ですね。通りすぎたらキレイになりますものね」

彼女はあきれるでもなく、クスクス笑ったので俺はホッとした。
俺がつぎに何を話そうか迷っていると、彼女のポケットからバイブ音が聞こえてきた。

「あ、お迎えの電話だ。失礼します」

スマホを手に、俺にペコッと一礼する。

「気をつけて帰れな」

あ、これさっきマスター少年が彼女に言ったセリフ、まんまだ…。
人っこひとりいなくなった渡り廊下で、俺はうなだれた。

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