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僕ら× 1st.

第5章 伊織の婚約者 --Shu

「こんにちは」

あいかわらず返事ひとつしないヤツになりかわって挨拶する。

「おふたりとも体育祭の騎馬戦、大活躍でしたね!音楽室に用事ですか?忘れ物とか?」

アルが何でもないと静かにかぶりを振ると、その女のコは微笑みながら花野ちゃんのいる音楽室に入っていった。

「誰?」

「花野ちゃんのお友だちじゃね?」

さっそく、窓の向こうで彼女と親しげに話をしている姿が見える。

「そんなの見たらわかるよ。何、話してんだろ?」

そりゃ盗聴チップを窓に貼れば会話は聞けるだろうが、密室のガールズトークをかいつまむのは気が引ける。
花野ちゃんの"聞いてはいけない話"だったらどうすんだよ?と思いつつも、いちおう尋ねる。

「チップ使う?」

するとアルは、「絶対にすんな」と俺の期待に応えた。

それでも彼女と会話している人間は、性別問わず片っぱしから気になる様子で窓の外から彼女たちの動きを見つめている。

花野ちゃん情報を収集したいのはわかるけど、さ。

「私、柊先パイのことよく夢に見るの。え?私もよ。…なら2人で愛人にしてもらおっか?」

「……」

俺がおちゃらけると無言で返す。
まったく、らしくないよなぁ。

「突っこめよ。あのコ、お前のこと好きっぽいぞ?」

先ほどの会話の、視線と態度で一目瞭然。
俺に愛想をまきつつも、アルを熱く見ていた。

「…俺は知らん」

あからさまに難しそうな顔をする、アル。

「おい、考えろよ?あのコは花野ちゃんと仲がいい。邪険にあつかうと、花野ちゃんのなかでのお前の評価、がた落ちだからな?」

わかってないようだから、忠告してやった。

「…まだ俺を好きって決まってねぇだろ?」

「だけど…いいか?冷たくしちゃダメだ。でも、優しくしてもダメだぞ」

わかってからじゃ手遅れだろ?と付けたしておく。

「は?そんな高度なテク、持ちあわせてねぇよ。無理とわかっていること、要求するな」

自分で自分のこと、よくわかっているようじゃねぇか。
そう、お前の対女性コミュニケーション能力は幼児以下だからな。

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