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僕ら× 1st.

第5章 伊織の婚約者 --Shu

「お前があのコに冷たくすると、友だちである花野ちゃんに、何を吹きこまれるかわからねぇ。そして、あのコがお前に本気になればなるほど、お前と花野ちゃんの距離は遠ざかる…花野ちゃんの"あいつ君"も未だ気になるし」

アルは、俺の話を目を閉じたまま首を傾けて聞く。
下唇を軽く噛んで。
耳が痛いときのこいつは、決まってこんなだ。

「俺、バレーボールはぜったいしねぇ」

目を開けて何を言うかと思えば、これだ。

「そういう問題なのか?あ、出てくるぞ?」

アルの表情が固まり…。

「逃げる」

そう言いのこし、本をつかみ身を起こしたアルは、電光石火で建物の向こうへ駆けていった。

「おい……」

なんじゃ、あいつは…。

ナイフを振りかざす男が現れたって余裕の笑みを浮かべるヤツが、年下の女のコ相手に逃亡って…情けねぇ。

ため息をひとつ出し、俺もヤツを追おうとしたところ、呼びとめられた。

「柊先パイ。ちょっといいですか?」

「え?ああ、いいよ」

おマヌケなエスケーパーのことは気にはなるけど、女のコをムゲにできねぇしな。

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