後輩くんの挑戦状 ~僕に惚れてもらいます~
第9章 詫びのしるし
季節は六月。
柔らかく暖かかった日差しも、いよいよ熱いと形容するのが似つかわしくなってきた今日この頃。
事務所から外へ出た私は、後ろからすがり付いてくる藤堂さんの声を扉を閉めて振り切った。
「待ってくれ立花~!」
「……」
“ 待たないわよ ”
事務所の出入口から見えるのは鈍色の摩天楼が立ち並ぶオフィス街──ではなくて、5、6階建ての雑居ビルやペンシルビルがまるでスクラップされたかのように密集した街。
都市計画的に考えると劣悪な状態だが、私はけっこう気に入っている。
今では珍しい看板建築も古き良き光景だ。
そんな街の三角角地に建つアトリエ事務所には、今の時間、東南から真っ直ぐと光が降り注ぐ。
二階にある事務所の扉から出てきた私も真正面から光を浴びて、背後に薄黒の影を落としていた。