後輩くんの挑戦状 ~僕に惚れてもらいます~
第9章 詫びのしるし
「──…そういうことだから、説得なら無駄よ」
「それは困りました」
「降りる?事務所に戻ったら?」
「…いえ。先輩を説得するまで戻ってくるなと言われているのでこのまま同行します」
私がマラソン参加を拒否するから
葉川くんは " 困っている " らしい。
…まさかまさか
" 好都合 " の間違いでしょうに。
「嘘はやめなさい」
「…ばれましたか」
「ばれるわよ」
「本当は、説得と言うのは口実で…──先輩を追いかける理由にさせていただきました」
「くだらないことするわね……」
「…でも、成功しましたよ」
「……っ」
長い信号待ちが終わって動き出した並行車。
アクセルを踏む足に思わず力がはいり、私の車は乱暴な発進をした。
「こうして今は先輩と二人きり、ですから」
私はなんとか表情が崩れるのを抑えたけれど、その陰では、ハンドルを握る手に可笑しな汗が滲んでいた。